福岡地方裁判所 昭和25年(行)143号 判決
原告 只隈ヨネ
被告 大牟田市長
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告代理人は被告が大牟田市不知火町一丁目八十二番地上の建物につき昭和二十五年八月十四日付区整第三六三号を以てなした建物除却命令を取り消す。訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、その請求の原因として請求の趣旨記載の本件建物は原告の所有であるところ、被告は原告に対し耕地整理法第二十七条の規定に基き不当にも本件建物を除却すべき旨の命令を発した。
しかしながら大体耕地整理法なるものは土地の農業上の利用増進を目的とするものであるところ、本件建物の敷地部分はいうまでもなく市街地の中心にある宅地であつて、農業上の利用に供せられるような土地ではない。畢竟被告のなした本件建物除却の命令は耕地整理法に藉口して原告から不当に本件土地を奪わんとする違法の処分である。
よつて茲に原告は被告に対し右違法な処分の取消を求めるため本訴請求に及んだと陳述した。
(立証省略)
被告代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として原告主張の請求原因事実は被告が原告に対しその主張の如く建物の除却命令を発したことは認めるが、その余の事実はすべてこれを否認する。原告は被告が耕地整理法第二十七条の規定に従つて本件建物除却命令を発したことを以て違法であると主張しているけれども特別都市計画法第一条第一項には、同法が特別都市計画に関し都市計画法の特例を定めたものであることが規定され、都市計画法第十二条第一項には都市計画区域内に於ける土地に付てはその宅地としての利用増進のため、土地区画整理を施行することができる旨、第二項には右の土地区画整理に関しては都市計画法に別段の定ある場合を除いて耕地整理法を準用する旨規定されているので特別都市計画に関する土地区画整理の施行に当り、耕地整理法第二十七条の規定に従い建物の除却命令を発し得ることは当然のことであつて、原告の本訴請求の理由なきこと明である。
而して大牟田市戦災復興都市計画は昭和二十一年一月二十四日内閣総理大臣から特別都市計画復興土地区画整理設計の認可があり、一般市民に告示され、都市計画福岡地方委員会の決定によつて、都市計画事業として施行されることになり、続いて昭和二十五年五月三十一日土地区画整理委員会の審議を経て換地予定地の指定が行われ、これによつてもと円佛末吉の所有地であつた本件土地は整理前の吉田長蔵所有に係る大牟田市不知火町一丁目八二の一番地の換地予定地に指定せられたから、本件建物は吉田長蔵所有地内に建てられているのと同じ結果となり新に換地予定地の指定を受けた者の利用の妨害となるので茲に土地区画整理施行者たる被告において本件除却命令を発した次第である。
尤も原告に従前の土地につき適法なる借地権があれば被告としては、特別都市計画法第十五条の規定に従い本件建物の移転命令を発すべき筋合であるけれども、大体本件土地を含む附近一帯は、大牟田市のいわゆる公館地区として計画せられ、個人の住宅、店舖等の工作物の建築は一切これを制限せられていたものであつた関係上原告所有の本件建物の建築の如きも本来はこれを認められなかつたのであるが、原告から前記公館地区としての配置計画が決定した暁は何時にてもその責任において地上建物を除却し何等の迷惑をかけないからという切なる懇請があり又その賃貸人である円佛末吉との連署に係る請書も提出せられたから大牟田市としても特に右条件の下に暫定的に本件建物の建築を認めてきたのである。
然るに前記の通り本件土地を含む附近一帯に公館地区としての換地予定地の指定があつたのであるから、本件建物は早晩これを除却せらるべき運命にあつたものというべく、このような場合には特別都市計画法第十五条第二項の適用はないと解すべきであるから、従つて被告が本件建物につき耕地整理法第二十七条の規定に従いその除却命令を為したことは相当であつて毫も違法の廉はないのであると陳述した。
(立証省略)
三、理 由
原告が本件建物除却命令を違法と主張する理由は、本件土地は市街地の中心に在る宅地に外ならぬのであるから、土地の農業上の利用増進を目的とする耕地整理法第二十七条の規定に従いその地上建物の除却命令を発するのは許されないというに在る。然しながら特別都市計画法第一条第一項には同法は特別都市計画に関し都市計画法の特例を定めたものである旨規定せられ都市計画法第十二条第一項には都市計画区域内に於ける土地に付てはその宅地としての利用増進のため、土地区画整理を施行することができる旨第二項には右の土地、区画整理に関しては都市計画法に別段の定ある場合を除く外耕地整理法を準用する旨、規定せられているので特別都市計画に関する土地区画整理に当り耕地整理法第二十七条の規定に従い、建物等の工作物の除却命令を発し得ることは当然のことといわねばならぬ。
尤も特別都市計画法は都市計画法の特例であるから、都市計画事業の施行に当つては、まず第一段として特別都市計画法が適用せらるべく同法により得ない場合に第二段として都市計画法引いては同法第十二条の規定により準用される耕地整理法に準拠するのが順序であつて、特別都市計画法第十五条の規定に従い建物の移転命令を発すべき場合であるに拘らず、この挙に出ずることなく、直ちに耕地整理法第二十七条の規定による建物等の工作物の除却命令を発するが如きことは妥当を欠くものというべきであるけれども、証人円佛末吉、倉田宇六の各証言によつて、その成立を認め得べき乙第一号証の証明願及び請書に右各証言並びに弁論の全趣旨を綜合すれば本件土地を含む附近一帯は大牟田市特別都市計画により、いわゆる公館地区として計画せられ、個人の住宅、店舖、倉庫等の工作物の建築は一切これを制限せられていた関係上、原告所有の本件建物の建築の如きも本来はこれを認められなかつたのであるが、原告において右公館地区としての配置計画が決定した暁は何時にてもその責任において、地上建物を除却し大牟田市には何等の迷惑をかけない旨の懇請があり、又右借地条件も前記計画の決定までということであり、然もその旨賃貸人である土地所有者、円佛末吉との連署に係る請書も提出されたから、大牟田市としても特に右条件の下に暫定的に本件建物の建築を許容してきた事実を認めるに十分である。原告本人尋問の結果は信用できず他に右認定を左右する資料はない。
それで本件土地を含む附近一帯に公館地区としての換地予定地の指定があつた今日、本件建物は早晩除却せらるべき運命にあつたものというべく、このような場合には特別都市計画法第十五条第二項の適用はないものと解するを相当とするから、土地区画整理施行者たる被告において、耕地整理法第二十七条の規定により本件建物除却命令を発したことは相当であつて、この点からも右命令を違法とする理由はない。
以上の如く本件建物除却命令には原告主張の如き違法の廉はないので、その取消を求める本訴請求はこれを理由なきものと認めて棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文の通り判決する。
(裁判官 入江啓七郎)